今昔西成百景(006)

◎幻の川・十三間堀川

 十三間堀川は一六九八年に木津川の水を引き入れて、用水と作物をはこぶために地主たちが費用を出し合って今の粉浜までつくられた。といっても今や埋め立
てられ、その上を阪神高速道路が走っている幻の川。
 一九七〇年三月の万国博覧会開幕にむけて高速道路の突貫工事が行なわれたが、それまで長い間十三間堀川はゴミと悪臭の川として放置され、かつては屋形船も浮かんでいたというおもかげもない無残な姿をさらしていた。住民の「何とかしてほしい」という声を逆手にとって、埋め立て即高速道路建設と進んでいったのは、いかにもできすぎたやり方だと今からでは思われる。
 しかしこの高速道路は完全な欠陥道路である。振動・騒音・排ガス公害での住民からの苦情はたえないし、公団自体も年中補修工事をやってそのことを証明している。
 川のなかへじゃぶじゃぶと道路をつくって行っただけでなく、その道路の下には、堺臨海工業地帯へ行く工業用水の巨大な鉄管が納められていたのを多くの住民がみている。
 軟弱な地盤のうえに、ドテッ腹に大穴を開けられているようなことでは、高速道路も足のふんばりようがないのではないか。
 昔、住民がお上へ上納金を差出して許可を受け、みずから費用を出し合ってつくった十三間堀川、今では大企業のために行政が税金を使って埋め立て便宜をはかってやり公害だけを住民に残していった。大企業べったりの大阪府・市政の典型の一つだろう。
 十三間堀川ぞいの家の板べいに「赤旗」新聞を張り出してがんばっていた、今は亡き「植野のガラス屋のおっちゃん」の思い出と共に、かつての十三間堀川の姿はいつまでも忘れない。
(一九九一・七)

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