照る日曇る日(011)

「<子供の誕生>」という、大部な著作がある。作者はフランスの歴史学者、アリエス。原題は少し違うが、邦訳では、題名はこのようになっており、抜群のネーミングだと思う。考えれば、子どもは誕生するのが当たり前のようだが、実は、「子ども」という考えの枠組みができたのは、近代以降だったというのが本書の主旨である。かつて子どもは<小さな大人>として認知され社会の共同の場に属しており、大人なみの働きぶりを強要された。しかし近代に入って、主として教育の制度は、子どもへの特別の配慮をもたらした。この考え方は、医学では「子どもは小さな大人ではない」とする小児科学の勃興、発展、また世界保健機構の児童権利宣言や日本の児童憲章につながってゆくのである。
 こうした歴史を見ていると、ユゴー作「レ・ミゼラブル(ああ無情)」の登場人物が浮かんでくる。彼女・コレットは、「シングルマザー」の児として生まれ、その養家で、幼いときからこき使われる。こうした境遇のなか、小説の主人公、ジャン・バルジャンに拾われ、養女となり、小説の結末では、ジャンの最期を看取ることとなる。子どもが人として正当に扱われるよう心がけられるのは、ユゴーが、描き告発した時代より少し後の話であるが、子どもの「ミゼラブル(悲惨)」な現実は、戦火、貧困や差別など現在も形を変えて存在していると言わざるを得ない。
 日本での、とりわけ江戸時代からの「子ども観」は、また別の話題であり、機会があれば触れてみたい。
 図は、1879年 – 1882年出版のユーグ版のために描かれた木版画(Wikipedia より)

大阪きづがわ医療福祉生協機関紙「みらい」
2026年4月号搭載

キッズダイニング(子ども食堂)のお知らせ


とき:2026年4月1日(水)午後5時~6時
テイクアウト(持ち帰り版)で予約制です。
ところ:こつまの里1階(大阪市西成区松 2-1-35)
メニュー:王将お子様弁当&カルピス(30食限定)
料金:無料
ご予約は、℡:06-6658-7400 までお電話ください。

診療所待合いを整えました

 所内掲示を整理し、血圧計を使いやすい場所に移動したり、子どもさん向けの絵本などを並べました。診察の待合の時間に、ご利用くださいね。

照る日曇る日(010)

 マルクスは、こんなことを言っている。
「おとなは二度と子どもになることができず、できるとすれば子どもじみた姿になるだけである。とはいえ、子どもの天真爛漫は、おとなを喜ばせる。そしておとなが、今度は自分たち自身で、より高次の段階において子どものもつ素直さを再生産するよう努力しよう!」(経済学批判序説ー一部改変)
 含蓄(がんちく)のある言葉である一方で子ども時代に戻れない寂しさをとみに感じるが、せめて、親や祖父の努めとして、次の世代に何かを残して置きたいとも思う。そんな願いを表す手段の一つに、「母子手帳」がある。
 ふだん何気なく使っているが、それなりの歴史がある。もともとは、戦前のドイツで始められたものを見習い、同時期の日本では、「妊産婦手帳」としてつくられたものだ。当時の日本は、「妊娠中の養生に心がけて立派な子を生み、お国に尽くしましょう。」とするような風潮であった。それが、戦後になり、厚生省(当時)や小児科関係者の努力により、大きく変えられた。写真左は、初代母子手帳の表紙であるが、はて誰のであろうか?(笑)
 現在では、日本の母子手帳をモデルに、東南アジアなどにも広がって、乳幼児死亡率の低下、衛生環境の向上に役立っている。日本でも、発足当時からは、母子手帳も改定を重ねられた。こんにちでは、ワクチンの数や種類も大きく変わり、母子手帳は、接種の日程調整に役立っている。それに加えて、西成民主診療所では、つぎの接種予定を書いたタグシールを手帳に貼り、保護者に重宝がられている。(写真右)
 「デジタル」化した「母子手帳」も、それはそれで便利かもしれないが、自筆で記入した母子手帳で、わが子の成長の足跡を振り返るのは、親としてのかけがえのない楽しみであるだろう。

大阪きづがわ医療福祉生協機関紙「みらい」
2026年3月号搭載