今昔西成百景(016)

◎「盆踊り」「地蔵盆」

 政府は八月末にきめた「総合経済対策」で銀行の不良債権処理のため、銀行の担保になっている土地を、税金を使って買い上げる機関の設置を打ち出した。
 東京でも大阪でも、中小の不動産業者はほとんど銀行への利払いがとまっている状態という。業者は安く売って回収しようとしても、銀行から「時機を待て」とストップがかかる。かくて売りも、貸しもしない〃幽霊マンション〃や空地が、西成でも出現しているのである。

銀行の不始末を税金で救済とは

 銀行は不動産の担保の評価をはるかにうわまって過大に融資をしてきたから、担保を処分しても全額回収できない。今度の政府による不良債権の買い上げは銀行にとっては願ってもないことで、高めの価格で売れればそれだけまた儲かる…
 今年の夏は記録破りの猛暑だった 熱帯夜を打ち破れとばかり、各地で恒例の盆踊り大会や町内安全をねがう地蔵盆の行事が行なわれた。自・社・公・民四党なれ合いの大阪府・市政がすすめている「好きやねん大阪・西成」運動にはもってこいの風物詩。しかし、この府・市政の庶民の街つぶしの典型である、〃地上げ〃行為には何と無策であったことか。
 盆踊りの見物の中に、地蔵盆の提灯の下で、地上げに追われたかっての住民の「里帰り」した顔がちらほらしていた。
 「地上げは庶民いじめであると同時に、何より老人泣かせであります。借地借家人は何も悪いことをしたわけでもない。法律上も所有者がかわっても引き続き住む権利は認められている。それであるのにまるで虫けらのように出ていけと迫られる。長年にわたって築いてきたこれまでの生活基盤を失いたくない。ここで死にたい。暴力には屈したくない。こんな怒りをみんなもっています。そして老人にはひとしおその思いがつよくあります」 二年余前の府議会での私の知事への質問の一節である。質問の発端となった、天下茶屋で地上げを苦にして自殺した八十六オのおじいちゃんの長屋も、税金で銀行から買い上げるのか。
 土地や株に莫大な投機資金を注ぎこみ、バブル経済をつくりだして、国民に甚大な被害を与えた大銀行が、今度は税金で〃救済〃してもらおうという、こんな手前勝手なことは絶対に許せない。
 いま必要なのは、一番不況の打撃をうけている中小業者に手を差し伸べることである。これらの顛末、あらいざらいを、河内音頭にでもうたいこんで力のかぎり訴えようか。
(ー九九二・九)

編者注】
 コロナ禍で、この数年、「平和盆踊り」は開催できていません。また、いつの日にか、新たに復活することを願って止みません。

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