今昔西成百景(019)

◎てんのじ村

 「山王地区は暮らしやすい町であったことから、多くの芸人が集まり、『てんのじ村』と呼ばれ、庶民の文化・演芸発展の拠点となっていました。昭和五十二年十一月に記念碑が建てられました」西成区役所発行の「デ—夕—ブックにしなり」にこうかいてある。
 昨年末のある日、今も『てんのじ村』に住む、浪曲の浪花歌笑さんを訪れた。

がんばれ浪花小町

 師は留守だったが愛弟子の浪花小町ちゃんが、礼儀正しく対応してくれたので、思わず「がんばってや」と激励の言葉がとびだした。後日、歌笑さんとお会いした際に、浪花小町の歌手としてのデビュ—も間近いと聞かされた。
 西成には何人かのプロの歌手を目指して頑張っている若者たちがいる。近い将来に、それぞれが大きな花を咲かせてほしいと思う。
 正月三日ののテレビで「人情豊かな下町の風情が残っている庶民的な町・西成」と題しての特集番組があった。芸能に関する内容だった。いま、バブル経済が崩壊し残業が少なくなったり、週休二日制の職場が増えているなかで、地域でのつながりが見直されてきているという。町おこしのために、みんながチエと力を出し合う良いチャンスかもしれない。
 私もひとつ提案をしたいと思う。それは、西成には民謡、日舞、カラオケ、詩吟、沖縄舞踊、演劇などの教室やサ—クルが相当数あり、それぞれ毎週単位で活躍していることである。これこそ町おこしの大変なエネルギ—であり、行政の面でもできるだけの応援をすべきだと思う。ところがこれらの団体が日頃の練習の成果を発表する場が限られている。区民センタ—は申し込みが多く、日曜日に大ホ—ルを使おうとしてもなかなか確保できないのが実情である。また、区民センタ—の音響効果は不十分で、結局別に音響装置を業者に頼まなければならないということもある。
 そこで私の提案だが、それは、この際ぜひとも西成区に中規模の劇場形式の市民ホールを建設して、大いに市民の諸文化の発展の場にしてはどうかということである。すでに大阪市以外では立派な文化センタ—が人口数万人単位で作られ、現に役立っている。
 大阪市では近く西区にドー厶球場をつくるため、また、オリンピックを長居公園で行うために膨大な予算を投入するという。「一点豪華主義」で建設大企業を喜ばせることばかりやるのでなく、もっと地域に足を着けた、町おこしに役立つような施設をふやさなければ、大阪市の念願の「人口呼びもどし作戦一も決して成功しないであろう。
 『てんのじ村』の伝統をひく「西成文化ホ—ル」の実現を初夢におわらせないためにも今年もがんばろう。
(ー九九三・一)

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