西成・阿倍野歴史の回廊シリーズ（三）
阿部野神社と大名塚 (北畠三－七・王子町三－八)
阿部野神社の雰囲気は皇国史観まるだしで、いつ来ても抵抗を感じる。参道両脇の石柱に「大日本は神国なり」と刻まれているが、戦後の昭和四十八年の建造で、時代錯誤もはなはだしい。
正門の鳥居近くに北畠顕家の等身大の銅像が立っている。私は天下茶屋史跡めぐりのガイドをするときには、いつもこの前で次のように説明をする。
貴族の犠牲となった顕家
「この神社の祭神は南朝の重臣北畠親房と顕家の父子です。二十ーオで戦死した顕家は、十六オで陸奥守兼鎮守府大将軍に任ぜられるほどの秀才で、奥州を平定し、足利尊氏が叛いたのではるばる奥州から出動してこれを追撃し撃退。あと再び東下するも、留守の間に尊氏が勢いを盛り返して反撃、楠木正成が湊川で戦死し、吉野に逃げた後暇醐天皇が再度顕家を呼び返した。顕家は不利な戦いを各地でやりながら河内へ到着したが、ついに堺石津で戦死しました。天皇中心の政治を復活させて、再び甘い汁を吸おうとした貴族たちの犠牲になったとしかいいようのない、二十一年の短い人生でした」
顕家も正成も諌言して戦死
「しかしわずかに救いとしていえるのは、顕家が戦死する一週間前に後醍醐天皇に、戦争で疲弊した民の租税を減免すること。誤った中央集権を改めること。みだりに行幸や宴会をつつしみ、愚劣な輩に政道へのさしでぐちをさせないこと、などの堂々とした諌言を行っていることです。これは顕家が決して天皇や父親のロボツトではなかったという立派な証ではないでしょうか」
「ちなみに楠木正成も戦死直前に、朝廷に厳しい内容の諌言の手紙を送っています。これらは『建武の中興』や『王政復古』の実態が阿部野神社の境内に掲示しているような立派なものではなく、逆にいかにひどいものであったかを歴史的に証言するものではないでしょうか」と。
大名塚は神社とは別の評価
阿倍野区北畠公園内に大名塚という塚があり、北畠顕家の墓なりと伝えられ、江戸時代の学者並川誠所の提唱で享保十八年（一七二四）に墓碑が建てられた。
明治になり半ば埋没しているものを再建し、昭和十五年に大阪市の史跡公園となり現在に至っている。しかし顕家が戦
死したのは堺の南、石津川という説が有力であり、大名塚が果たして本当に顕家の墓であったのかは今も疑問である。
北畠公園内の案内板をみておどろいたことは、顕家の諫言問題を高く評価し詳しく説明しているという点であった。私は文献で知り独自に述べていたのだが、ここでは地元顕彰会の人々が、平成三年に新たに案内板をつくり顕家を再評価してしらせている。
阿部野神社では北畠親房らの「神皇正統記」の立場が激越な調子で押しつけられてくるが、阿部野神社創建のきっかけとなった大名塚では違っている。
つくられた「忠臣」や哀れ
多くの犠牲を払ってつくられた「建武の中興」なるものが、鎌倉時代よりも重い年貢、課役、税金で農民を苦しめ、ー方天皇とその寵児たちは、富貴を誇り、贅沢な暮らしをし、酒宴、蹴鞠、歌舞遊山にあけくれていることを、具体的に厳しく諌言した顕家が支持されている。
政権の腐敗を知り、激しくそれを批判しながらも、結局は人心の離れた朝廷を保持するために、負け戦と知りつつはるばる奥州から再度出陣せざるを得なかった「忠臣」顕家の哀れさが、後世の人々の心を打つのだろうか。
楠木正成も正行の場合も同様である。
今回は、その旧跡を撮影した動画を付けました。どうぞこちらも、お楽しみください。
【注記】
ルビ（ふりがな）の表記は、ruby タグを、太字部分は、b タグを、大きいフォントでは、font タグを用いています。
本文や画像の二次使用はご遠慮ください。
